背景
社内でメール検索ができないため回答が遅くセキュリティリスクも
利便性の高い顧客サービスや効率の良い業務処理の推進には、インターネットを積極的に、スピード感を持って活用することが不可欠となっている。しかしながら、アウトソーシングなどにより自社でインターネット環境をコントロールできなければ、その実現は難しい。株式会社リコー デジタル推進本部 セキュリティ統括部 部長 鈴木 弘之氏は、「当社は従来Webサイトやメールを含めたインターネット接続環境一式をアウトソーシングしており、クラウド化を促進しようと思っても、迅速な対応が難しい状況でした。2017年4月にアウトソーシング契約の更新時期を迎えることから、内製化することにしました」と説明している。
また、これらの一要素であるメールアーカイブの課題についても、株式会社リコー デジタル推進本部 セキュリティ統括部 和久利 智丈氏は、「従来のメールアーカイブは情報漏洩対策として行なっており、社内から社外に送るメールのみが対象でした。しかし、問題が起きたときの監査証跡として考えると本来はすべてを保存すべきです。また、保存メールを検索するのは委託先なので時間がかかります。特に古いメールはテープでアーカイブしていたので、テープを探しHDDに戻して検索する必要があり1カ月程度かかることもありました。そして何より、本当に必要なメールすべてが検索されたかを知るすべがありません。さらに、秘密保持契約は結んでいるとはいえ、メールの内容を知られることで委託先からの情報漏洩の可能性を完全には排除できないことも課題でした」と語っている。
経緯
メール利用実態の詳細が不明でも導入可能なMailDepot
そこでリコーは、インターネット接続環境を自社でコントロールするため、2015年7月から検討を開始した。インターネット接続環境一式の整備となると、ハードウェアの選定から各種ネットワークセキュリティ、メールなど検討事項が非常に多い。メールアーカイブについても仕様を固めるべく、メールシステム導入候補先と協議したが、その結果RFIを出せないという事態に陥った。「相談したベンダーに、アーカイブするメールは何通なのかと聞かれました。データ容量なら見当がつきますが、何通くらいあるかは把握できていませんでした。さらに、外部へのメールだけでなく全メールをアーカイブするつもりだったので社内のメールも対象になりますが、その流通量もわからず、困ってしまいました」(和久利氏)。
そんな時、以前から付き合いがあったSRAに相談したところ、メールアーカイブ・ソフトウェア「MailDepot(メールデポ)」を紹介された。MailDepotは、50TBもの大容量のメールをアーカイブでき、その大容量データから必要なメールを高速で検索・参照できるソフトウェア。たとえば100万件のメールから1通を1秒以内で検索可能だ。MailDepotは容量がわかれば導入でき、利用しながら調整できることから導入を決定した。
ポイント
オープンソース活用によりコストを抑制し、多言語にも対応
導入にあたって、その他にリコーが特に評価したのは、MailDepotがオープンソースを活用している点だ。和久利氏は、「オープンソースなので、アーカイブシステムを利用するためのミドルウェアなどを追加する必要がなく、余分なライセンスコストをかけずに済みました」と評価している。また、グローバル企業であるリコーグループには外国人社員も少なくないが、そういう社員が利用できるよう多言語に対応している点も評価ポイントだった。
導入は、2016年10月にスタートした。リコーの仮想基盤上に構築し、その導入作業はSRAが担当。メールシステムを提供するベンダーと連携して構築を進め、2017年4月利用を開始した。「今回のプロジェクト全体にとって、メールアーカイブシステムの導入はどちらというとサブプロジェクトという感じでした。やるべきことが非常に多いなか、MailDepotの導入は大きな問題もなく、非常にスムーズに進みました」(和久利氏)。
効果・今後
内部で迅速な調査が可能になり経営に必要な武器を獲得
リコーは、今回の取り組みより、メールに関してすべて自社でコントロール可能となった。また、MailDepotの導入により、委託先に問題のあるメールを見られる可能性もなくなり、迅速な検索も可能になった。「検索さえすれば、すぐに結果が得られるようになりました。企業の社会的責任が問われる昨今、万一何か問題が起きたとき、すぐに調査・対応ができないようでは経営上のリスクとなり得ます。そういう意味で、今回迅速な調査が可能になったことで、経営に必要な武器を獲得できました」と、鈴木氏は評価している。
メール流量が予想以上に増えているなか、運用は安定している。以前送信メール数は約450万件/月だったが、2016年3月のピーク時のアーカイブメール数は1日で250万件に達した。「これだけメール流通量が増えてもMailDepotは安定稼働しています」と和久利氏。
さらに、2018年4月からはOffi ce365の利用を開始。これによって、メールの数がどう変化するか、推移を見守っている。「当社の規模として、この流量が適正なのか疑問もあります。一方で、今まで漠然としかわからなかった流通量を可視化できるようになり、経営に投資を求めやすくなっています」(鈴木氏)。
現在メールアーカイブは、国内の全グループ会社のメールが対象。検索は株式会社リコーのIT部門が行なっているが、今後グループ各社の内部統制室に調査権限を移行する予定である。「今後、よりガバナンスを効かせた運用に切り替えていく予定です。MailDepotは、ブラウザから簡単に検索できるので、ITの専門家でなくても自ら調べられます。また、海外に関しては未対応ですが海外展開も検討しなければと考えています」と鈴木氏は抱負を語る。
最後に鈴木氏は、SRAについて、「オープンソース活用に強く、いろいろと助けてもらっています。今回のMailDepotのシステムも外販モデルとして我々のお客様に対して提案していきたいと考えています。今後もビジネスパートナーとして協力していきたい」と語った。