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複雑系とソフトウェア 

ソリューション ビジネス部 

杉本 光司(*1)

はじめに

現在,工学的なシステム構築にパラダイムの転換が起 ろうとしている.複数のノーベル賞受賞学者を集結させて 80年代半に設立されたサンタフェ研究所は,その新たな パラダイムである'複雑系'解明の触媒的役割を果たしている.

本小文は,その複雑系をソフトウェアと絡めて紹介して いくものである.第一章において,複雑系を俯瞰し,第二章において,複雑適用系のソフトウェアであるSwarm を紹介する.最後に,第三章において,複雑系を理解する為のリソースを紹介する.

1.複雑系

著者が複雑系(Complex System)なる言葉を目にしたのは,1992-1993年のいずれかのBit誌上であった.米 国で,M. Mitchell Waldropによる名著「COMPLEXITY The Emerging Science at the Edge of Order and Chaos」が出版されたのが1992年であるから,時期に関してそれ ほど間違いは無いと推測される.

1996年に上記書籍の日本語訳が出版され,日本でも 「複雑系」が流行していたと聞いている(*2) ,読者の中にも,特に'収穫逓増'と'ロック・イン'をキーワードとした 経済面での「複雑系」なる用語を耳にした方も多いかもしれない.

我々,ソフトウェア企業の労働者は,通常,システム を構築する際に,対象システムを基本構成要素に分解しシステムを構築する.その際の,構築テクニックとし,古 くは,構造化手法,現在では,オブジェクト指向を用いているであろう.これは,現在までの主流の科学が,対 象物を基本構成要素に分解し,対象物をこれら基本構成要素の性質に還元して説明してきたことに由来する (還元主義 reductionism).

つまり,ソフトウェア企業が現在まで構築対象としてい るシステムは,必ず線形(linear)な性質を有しているとの 暗黙の認識下で存在しているわけである.(「全体は部分の総和以上でも以下でもない」という考え)

「複雑系」と呼ぶシステムは,非線型(non-linear)の性 質を有しているシステムである.つまり,いくら構成要素

の性質を解析してもシステム全体の振る舞いを説明でき ない性質を持つ.(「全体は部分の総和以上である」)

「複雑系入門」井庭 祟/福原 義久著では,「複雑系」を"システム全体の文脈によって,構成要素の機能や ルールが変化するシステム.構成要素によってシステム全体ができているため,構成要素の機能が変化すると 全体の文脈も変化し,それによって構成要素の機能が変る不断の循環をもつ"と定義している.

我々の身近には,生物,生態系,社会,経済, Internet(*3)といった「複雑系」とみなせる系が多数存在し ている.これらの系は,系を構成する個々の主体(生物系の構成要素)が局所的な相互作用を行うことで創発 されたものと捉えることができる.

例えば,人間を構成している要素(細胞,血液等)は, 絶えず生成/死滅を繰り返すが,その構成物である人間のアイデンティは安定していることや,社会を構成する要 素(人,組織)は絶えず変っていくが,社会は,その集団的傾向(例えば,国民性,文化など)を安定的に 保持する事などがあげられる.流行,文化,宗教は,社会における創発現象として捉えることができるし,人間 の知性は,人間を構成している物質による創発結果である.

ソフトウェアが「複雑系」から学ぶものがあるとすれ ば,従来の還元主義的システム構築のパラダイムから自己組織化,創発,そして進化型のシステム構築へのパラ ダイムの変革であろう.何故なら,'生物'という歴史のあ る計算主体は,構造化系のパラダイムで設計されていないからである.

2.複雑系とソフトウェア

本章では,サンタフェ研究所の主要な研究テーマで もある「複雑適応系」を取り上げたのち,Chris Langton


(*1): SRA,Inc. 

E-Mail: m-sugimt@pop13.odn.ne.jp,m-sugimt@sra.co.jp

(*2): 98年春まで米国滞在期間中であったため,日本の事情は知 らない. 

(*3 ):'The Internet'をTCP/IPプロトコルにより接続されたネットワーク群を表記する言葉として用いる,一方, 'Internet'を,社会文化的ニアンスを含んだネットワーク社会を表記する言葉と して文中で用いる


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