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      逃げる男
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  はやく
  にげたほうがいい

  そこでわたしは駆けだすのだが
  あの男は
  また
  どこかの街角で
  黒いコートを着て待ち伏せていたりする
  そして
  まるで古風なサーカス芸人の顔つきで
  向こうのビルの屋上へ
  空中ブランコをひとふり
  振ってみせたりする

  やあい
  にせもの
  かえってこい

  声は
  哀しい銀色の風となって
  空を吹きぬけ
  しかし
  どこにも
  彩色の凧があがっているというわけではなく
  あちこちの窓から
  棺桶のようなものを叩く音がきこえてくる

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[Postscript]  アメリカ大好きの友人と飲んで,東京と
ニューヨークの優劣について論争になった.論点はわれ
われディレッタントにとってどちらがアングラ芸術の鑑
賞に便利かということだった.「たしかにきみのいうよ
うに,ここ20年の東京はあちらより進んでいるかもし
れない.しかし,この街にはハードボイルドの精神が欠
けているぜ」とかれがいう.「それはしかたがない.あ
ちらはまだ西部劇の時代を引きずっているのだもの.で
もミステリならむずかしいかもしれないが,詩ならきみ
好みのハードボイルドができるかも」といって,これを
殴り書きしてみせたのだが,かれの批評は「だめだめ,
これじゃ半熟卵だよ!」


SRA KISHIDA Kouichi, k2@sra.co.jp