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          日常 − 1998年・冬
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     涙が風で凍りつく上海の夜
     口ひげの詩人が
     烟草をくゆらせながらつぶやいた [*1]
     
     − 絶望を信じるな
        それは
        希望とおなじように虚しい
     
     それから半世紀
     南カリフォルニアの肺癌病棟のベッドで
     同じような口ひげをはやしたロック・ギタリストが
     葉巻をくわえながら空をながめめていた [*2]
     
     − わたしはここにいる そして
        絶望よ
        おまえは虚空をただよう わたしのソファ
     
     いま
     わたしの心のなかのちいさな窓からは
     木枯しの庭がのぞき
     曲がりくねり裂けた梨の木の枝に 
     ちぎれた不死の広告がひっかかっているのが見える [*3]
     
     CD プレイヤには
     無音のオルタナティブ・ロック [*4]
     コーヒー・カップの下には
     読みさしのミステリ
     題名は Bordersnakes (国境の蛇)
     これもまた
     絶望を知らないふたりの男たちの物語ではある [*5]
     
     
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     [Postscript]  先日亡くなった田村隆一さんの最後の詩集 "1999"
          を友人たちからプレゼントされた. その巻頭の詩を読んで,
          返歌のつもりで作ってみた Light Verse.
     
     [*1] "絶望の虚妄なることまさに希望に相等しい" : 魯迅
     
     [*2] Frank Zappa のアルバムのなかでわたしが一番気にいっている
          アルバム One Size Fits All のなかの曲 Sofa No.2 に: I am
          here, and you are my sofa というフレーズがある
     
     [*3] "梨の木" は田村さんが, そして以前には西脇順三郎さんが好ん
         でとりあげた題材だった. なぜかは知らない.
     
     [*4] ある友人から KORN の Follow the Leader をぜひ聴けと推薦さ
          れた. アルバム先頭の 12曲はすべてサイレント. 13曲目ではじ
          めて音が出る.
     
     [*5] 70年代最高のハードボイルド・ミステリといわれた "Last Good
          Kiss" の James Crumley が 長年の沈黙を破って発表した作品.
          翻訳はたぶんまだ出ていない ?


SRA KISHIDA Kouichi, k2@sra.co.jp