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                            西冷幻詞
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    過去に向かって開いている街  だから記憶は  しばしば逆潮となっ

    てはるかな海から襲ってくる  そして  ばらばらに砕け  碧い湖の

    底に沈む  人びとが好んで食べる蓮根の孔にも  あるいはそのかけ
    
    らが残っていたりするであろう  寺院の前の広場で  狂った老婆が
    
    聖七面体の衣装をかなぐりすて  祝婚の嘔吐の香りをあたり一面に
    
    撒き散らす  とても郵便配達の趣味には合わぬ扉を抜けて  郵便配
    
    達夫ふうの男は街の雑踏に消えて行く  ひどい霧が取り壊された城
    
    壁の周辺を包み  そこの掘割からつながった湖の底で  時の魚たち
    
    は  蓮の根にこびりついた記憶のかけらをつついていよう  霧をつ
    
    らぬいて城門に向かう橋の上を  涙で蒼ざめた馬が走り  まるで馬
    
    のような汗を流す  高架鉄線に吊るされた雀たちの呪い  羽虫を含
    
    んだ風は  けっして竜のようには巻かず  虎のように噛むこともな
    
    いだろう  過去に向かって開いているこの街のターミナル駅で  少
    
    年はもう早く未来へ帰りたいと叫んだのだが  それは無駄  路地裏
    
    の長老たちが眠りながら陥ちこんで行くその精神の変調過程を  か
    
    れは偶然にも見てしまったのだから  無数の建物の無数の部屋の無

    数の古ぼけた寝台の上で  かれは何度でも生まれてしまう  寒い朝
    
    ね  と娼婦たちの挨拶を真似て鳥たちが唄い  物売りの呼び声が光
    
    の底をかきみだすと  湖の中のちいさな島  その小島に掘られた四
    
    つの池のあたりから  泡立ち泡立ちながらあふれてくる涙の波をか

    きわけて  一匹の巨きな蛇がゆっくりとこちらへ  ぬめりながら近

    づいてくるのが見える  緑衣を肩にまとったひとりの尼僧を乗せて

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     [Postscript]

       10年ぶりに中国・杭州の街を訪れる機会を持った.西湖の美しさ
     は相変わらず.しかし,それを取り巻く街の風景は大きく変わって
     しまっていた.近代化が進んできれいになったという見方ができる
     一方で古い街並みが消えて行くさみしさもある.

       せっかくだから宋詞の大家・蘇東坡先生の有名な「盧山烟雨浙江
     潮」というリフレインのある七言絶句に対抗して, 散文詩を作って
     みようと試みた. まだ, あと何回か推敲しないと完成品にはならな
     いように思う. もちろん, 魯迅先生の「詞」(Message Poem)には遠
     くおよばないのだが .....


SRA KISHIDA Kouichi, k2@sra.co.jp